大泉洋が好きだ。
『水曜どうでしょう』の初期の頃からのファンなので、年齢を重ねるごとに俳優としていい味を出している姿を観るだけで、楽しい気持ちになります。
映画『騙し絵の牙』は、そんな大泉洋が主演を務める作品です。
本作は、作家・塩田武士が大泉洋をイメージして主人公を「あて書き」した同名小説を原作としています。さらに、吉田大八監督が大泉洋を主演に迎えて映画化したことで、まさに大泉洋のための作品に仕上がっています。
舞台は大手出版社の薫風社。次期社長をめぐる権力闘争が勃発し、社内のさまざまな思惑が交錯していきます。
最初は単純な派閥争いかと思って観ていましたが、物語が進むにつれて何度も騙されました。
個人的な評価は70点(100点満点)です。
大泉洋の演技はもちろん、出版業界の仕事や町の書店の存在価値についても考えさせられる映画でした。
※以下、物語の展開に関するネタバレを含みます。
映画『騙し絵の牙』のあらすじ
物語の舞台は、老舗の大手出版社・薫風社です。
社長の急逝をきっかけに、次期社長の座をめぐる権力争いが始まります。
対立するのは、100年以上の歴史を持つ文芸誌『小説薫風』を重視する宮藤和生常務(佐野史郎)と、社内改革を進めようとする東松龍司専務(佐藤浩市)です。
東松派には、お荷物雑誌とされる『TRINITY』の編集長・速水輝(大泉洋)がいます。
一方、宮藤派には『小説薫風』の編集長・江波百合子(木村佳乃)がいます。
当初は東松派と宮藤派の対立というわかりやすい構図ですが、物語が進むにつれて登場人物それぞれの思惑が明らかになり、対立関係は複雑になっていきます。
登場人物と人物相関図

物語の中心となるのは、雑誌『TRINITY』の編集長・速水輝と、『小説薫風』の編集長・江波百合子の対立です。
しかし、単純な派閥争いだけでは終わりません。
誰が誰を利用しているのか、誰が本当の味方なのか。登場人物の思惑が次々と明らかになり、物語の見え方が変わっていきます。
薫風社の社内政治については、最後に誰が笑うのか、ある程度予想できる展開でした。
それでも、そこに至るまでの過程は全く予想できませんでした。
何度も「ああ、そういうことだったのか」と驚かされます。
結末を知った上でもう一度観ると、登場人物の言動が違って見えるはずです。
2度観ることで、さらにおもしろさを発見できる作品だと思いました。
映画『騙し絵の牙』を観た感想【ネタバレあり】
1. 大泉洋演じる速水輝がとにかくかっこいい
この映画の最大の見どころは、大泉洋演じる速水輝の仕掛けの数々です。
率直に言えば、最後の最後に笑う人物は比較的容易に予想できました。
しかし、そこに至るまでの展開では何度も騙されました。いい意味で期待を裏切られ、そのたびに「そういうことか」と驚かされます。
特に印象に残ったのは、速水が仕事を成功させ、意気揚々と役員室へ歩いていく場面です。
その姿が本当にかっこいいのです。
長年の大泉洋ファンとしては、まさにこんな大泉洋が見たかったと思いました。
それにしても、大泉洋はスーツが似合います。
『水曜どうでしょう』に出演していた頃の姿からは想像もつかないほど、堂々としたビジネスマンを演じています。
年齢を重ねて俳優としての魅力が増していることを、改めて感じました。
2. 松岡茉優演じる高野恵の仕事ぶりがすごい
もう一人、印象に残ったのが松岡茉優演じる高野恵です。
高野は新人編集者という設定ですが、仕事に対する姿勢がとても真摯で、その執念にはプロフェッショナルを感じました。
新人編集者という設定が本当なら、これは相当に優秀な新人です。とても新人には見えません。
高野の仕事を通して、1冊の本を出版することがどれほど大変なのかが伝わってきます。
作家が書いた原稿に対して、編集者が意見を伝え、よりよい作品にするために何度も修正を重ねます。
さらに、校閲者によるチェックなど、多くの専門家が関わって1冊の本が完成します。
本は多くの人の目を通して出版されるため、情報の信頼性が高いと言われることがあります。
この映画を観て、その言葉の意味を実感できました。
1冊の本が完成するまでに、何人ものプロが関わっていることがよくわかる作品です。
3. 雑誌の表紙を決めるシーンに感動した
出版の仕事を描いた場面の中で、特に印象に残ったのが雑誌の表紙を決めるシーンです。
何通りもの写真とフォントを比較し、その組み合わせを検討しながら、最終的な表紙デザインを決めていきます。
読者の目に触れるのは完成した1枚の表紙ですが、その裏側では途方もない作業が行われています。
そして、ようやく決まった表紙が印刷機で大量に印刷されていく場面では、なぜかじんとくるものがありました。
自分でも理由はよくわかりませんが、何人もの人が関わって作り上げたものが、実際に形になって世の中に送り出される姿に感動したのだと思います。
映画を通して、普段何気なく手に取っている雑誌や本の見方が少し変わりました。
4. ネット書店の時代に町の書店は必要なのか
この映画には、出版業界の権力争いとは別に、もう一つ重要なテーマがあります。
それは、インターネットで簡単に本を購入できる時代に、町の小さな書店にはどのような価値があるのかという問いです。
Amazonのようなネット通販が普及したことで、書店に足を運ばなくても本を購入できるようになりました。
それでは、実際の店舗で本を販売することには、どのような意味があるのでしょうか。
映画の中盤には、この問いに対するヒントとなる場面が登場します。
その描き方がとても自然でした。
大げさに答えを提示するのではなく、何気ない会話の中にヒントが隠されています。
こうしたさりげない演出が、観ていて心地よく感じました。
出版業界を舞台にした映画ですが、単なる社内政治の物語ではなく、本や書店の価値についても考えさせられる作品です。
5. 何度も騙されるストーリーと音楽の演出
『騙し絵の牙』というタイトルのとおり、登場人物たちの思惑が交錯し、観客も何度も騙される展開になっています。
最終的な結末はある程度予想できたものの、途中の仕掛けには驚かされました。
冒頭に登場するニュース番組のような演出には、正直なところ少し白けてしまいました。
しかし、物語が進んでから登場するニュース番組の場面は、ストーリーを盛り上げる効果がありました。
また、展開が大きく動く場面で流れる音楽も印象的です。
テンションが上がるような音楽が使われていて、物語の盛り上がりをさらに引き立てています。
大泉洋や松岡茉優だけでなく、佐藤浩市、佐野史郎、木村佳乃など、脇を固める俳優陣の演技も見応えがありました。
原作小説『騙し絵の牙』も読んでみたい
映画を観た結果、原作小説もとても読みたくなりました。
本作は、大泉洋をイメージして書かれた小説が原作です。
その作品を実際に大泉洋が主演して映画化しているという点も興味深く感じます。
映画では何度も騙されましたが、原作では登場人物の心理や思惑がどのように描かれているのでしょうか。
原作を読んだ上で、もう一度映画を観てみたいと思います。
結末を知ってから見返すことで、最初に観たときとは違う発見がありそうです。
まとめ|映画『騙し絵の牙』の評価は70点
映画『騙し絵の牙』の個人的な評価は70点(100点満点、星3つ)です。
大泉洋主演ということで期待して観ましたが、何度も騙されるストーリーや、出版業界の仕事を描いた場面が印象に残りました。
特に、大泉洋演じる速水輝が仕事を成功させていく姿はかっこよく、長年のファンとして楽しめました。
また、松岡茉優演じる高野恵の仕事ぶりも素晴らしく、1冊の本を出版するまでの大変さや、編集者という仕事の重要性を感じました。
町の書店の存在価値について考えさせられる点も、この映画の魅力だと思います。
一方で、結末がある程度予想できたことや、冒頭の演出が少し気になったこともあり、総合評価は70点としました。
大泉洋のファンはもちろん、雑誌や本が好きな人、出版業界の仕事に興味がある人にもおすすめしたい作品です。
原作小説もぜひ読んでみたいと思います。

