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【書評】『〈オールカラー版〉美術の誘惑』- 美術が持つ人を引きつける力とその広がりを知る一冊。

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読書
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美術は鑑賞者を楽しませる優美の対象でもあるが、社会や文化全般に強く関係をする広がりがある。

西洋でも東洋でも、美術は歴史の局面で重要な役割を果たしてきた。そのような美術はあらゆる人を惹きつける力がある。

宮下規久朗著『〈オールカラー版〉美術の誘惑』p.4

美術の誘惑について、様々なトピックから語られた一冊。どの項目から読んでも楽しめる構成になっており、つまみ食いスタイルの読み方もよし、通しで読んでもよしの作りだ。

オールカラーでたくさんの絵や芸術作品が紹介されているので、自分の気に入った1枚/1品を見つけることができる。それを実際の美術館で鑑賞するという楽しみも生まれる。

本書を読んでこれはと思った箇所を3点紹介をしていく。

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子供という概念と子供の肖像

子を持つ親にとって、子供ほど大事なものはない。

現代人にとっては当たり前の感覚と思っていたが、実はそうではない。子供という概念は近世に登場したものである。

フランスの歴史家・アリエスの名著『〈子供〉の誕生』によれば、中世には子供という概念はなく、言葉で意思疎通ができるようになる七、八歳くらいで早くも成人として扱われて労働に出され、それ以前の子供は家畜と同然のようにみなされた。一七世紀頃から大人と異なる子供という枠組みが現れ、同時に学校教育制度ができたのである。

宮下規久朗著『〈オールカラー版〉美術の誘惑』p.37

大人と子供という概念自体が近世になって登場したものであるというのは驚きであった。

美術でも17世紀頃から子供の肖像が登場したという。親が子供の肖像画を発注することで世に残されている。

もっとも、実際に子供の肖像が発注されるのは、ほとんどの場合、「亡き子を描く」の項で述べたように、子供がなくなったときだった。子供をなくして初めて、親はその姿をとどめたいという想いに駆られるのである。

宮下規久朗著『〈オールカラー版〉美術の誘惑』p.38

美術というのは別れてしまった人の姿をとどめたいという人間の欲求に基づいている。

美術館で子供の絵を観るとき、そこにどんな背景があるのかを想像して観ると、より深く味わえるように思う。そういった意味で、背景知識は鑑賞に奥行きをもたらしてくれるものだと思う。

釜ヶ崎芸術大学

大阪・釜ヶ崎といえば、ドヤ街として有名である。

学生時代、若者の貧困に興味関心があったため、学生仲間と釜ヶ崎をフィールドワークで何度も訪れた経験がある。そのため、釜ヶ崎という地名を聞くだけで興味が湧く。

釜ヶ崎では釜ヶ崎芸術大学という活動がある。2014年の横浜トリエンナーレ(3年に1度開催れる国際的な現代美術展)では、釜ヶ崎芸術大学の活動によって生み出されたアート作品が展示された。

日雇い労働者や路上生活者の多い大阪市西成区のあいりん地区において、音楽や演劇、詩や書画を教え、参加させるNPO法人による運動。

宮下規久朗著『〈オールカラー版〉美術の誘惑』p.97

美術制作というと美術大学等で専門的な教育を受けた一部の人のものと思いがちである。

美術制作というものは人が持つ何かを表現したいという想いを実現するための手段の一つであると気付かされるエピソードであった。

刺青という芸術

日本では刺青=タブー視されている。

公衆浴場やプールなどでは、刺青がある場合、利用できない。公務員が刺青を入れていたとして社会問題となった事例もある。

個人的には刺青に興味はない。しかし、刺青は日本の文化であり芸術である。

日本の刺青は最近ますます世界で注目を集めている。刺青が日本の誇るべき芸術であることはまちがいない。これに反して、日本の社会では刺青の居場所がなくなりつつある。

宮下規久朗著『〈オールカラー版〉美術の誘惑』p.102

刺青は身体装飾のみではなく、精神面での奥行きがある。

刺青は、単に肉体を飾る身体装飾ではなかった。刺青を入れた者は、その文様と同化するといわれる。彼らはつねに自らの文様を意識し、自らの人間性までも刺青の主題に影響された。

宮下規久朗著『〈オールカラー版〉美術の誘惑』p.103

刺青という芸術は生身の人間に存在するものであるため、美術館で展示や保存ができない。これを可能にしたのが写真であり、刺青を写真で残すことにより刺青という芸術が保存可能となる。

いままで刺青=社会的なタブーという認識であったものが、刺青をひとつの芸術と捉えることで、見える世界が異なってくる。

まとめ

「美術とはなにか」というテーマについて、様々なトピックを通じで考えされられる一冊である。

各トピックは5-6ページほどで、カラーでの絵も紹介されているため、とても読みやすい。25のトピックが掲載されているため、自分が興味があるトピックが見つかると思う。

ここで興味を持ったトピックを入り口にさらに学びを深めていくための、入門的な位置づけを果たしている本である。

また、美術が持つ人を引きつける力、その影響力は政治的、社会的な範囲にも及んだという歴史について学べる一冊である。

美術の誘惑

宮下規久朗 光文社 2015年06月17日頃
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